起業後、ある程度の売上や利益が安定してくると、「そろそろ法人化した方がいいのでは?」と考える方も多いでしょう。
この記事では、個人事業主と法人(株式会社・合同会社)を比較しながら、節税・赤字繰越・退職金という3つの視点から、法人化のメリット・デメリットを行政書士の立場でわかりやすく解説します。
1. 節税効果で見る法人化のメリット
個人事業主は所得税が累進課税(稼ぐほど税率が上がる)で、最大45%まで上がる可能性があります。
一方、法人の場合は法人税の実効税率が約23〜30%前後と一定であり、利益が大きくなるほど法人の方が有利になります。
【節税のポイント】
-
給与を自分に支払うことで、給与所得控除を受けられる
-
家族に給与を支払うことで、所得分散が可能
-
生命保険料や車両費、通信費などを経費化しやすい
-
決算期を自由に設定でき、利益調整がしやすい
つまり、利益が年間800万円〜1,000万円を超えるあたりが法人化の目安といわれています。
2. 赤字の繰越で見る法人の強み
個人事業主の場合、赤字を翌年に繰り越せるのは3年間までです。
一方で法人の場合、最長10年間の赤字繰越が可能となっています。
このため、設立初期に設備投資などで赤字が出ても、長期的な経営計画で黒字化すれば税負担を軽減できるというメリットがあります。
3. 退職金制度を活用できるのは法人の特権
個人事業主は、自分に対して「退職金」を支払う制度がありません。
しかし法人になると、代表取締役にも役員退職金を支給することが可能です。
退職金は損金(経費)に算入でき、かつ受け取る側の税負担も軽くなるという大きな節税効果があります。
【退職金のメリット】
-
法人側:経費として処理できる
-
受取側:退職所得控除が適用され、税金が大幅に軽減
長期的な資金計画の中で、退職金を組み込むことは経営者の老後資金対策にもなります。
4. 法人化の注意点
一方で、法人化には次のような注意点もあります。
-
設立・維持にコストがかかる(設立費用・税理士報酬など)
-
社会保険の加入が義務化される
-
事務手続きが複雑になり、専門家のサポートが必要
したがって、法人化は「いつ・どのタイミングで行うか」が非常に重要です。
5. まとめ:法人化は“節税だけ”ではなく“将来設計”で判断を
法人化の判断は、単に節税効果だけでなく、事業の成長性・家族構成・老後資金などを含めたトータルな視点が大切です。
赤字繰越や退職金など、法人にしかない制度をうまく活用することで、事業の安定と将来の安心を両立できます。